塾式COSMO

先週に引き続いて、今週は歴史と音楽とのかかわりについて、少しお話ししたいと思います。

音楽といっても多彩なジャンルが存在するので、今回は西洋音楽、いわゆる「クラシック音楽」について扱おうと思います。

 

 

西洋音楽の歴史上、最も古い作曲家は、今から約800年以上前の人物だといわれています。この時代は歴史区分では中世にあたり、当時のヨーロッパ世界はキリスト教(ローマ・カトリック教会)の全盛期の時代でした。そのため、西洋音楽もキリスト教の考え方に相容れない要素が徹底的に排除されました。その結果、音楽ももっぱら教会関係者の所有物であり、あらゆる曲が「三拍子」で作られたりしたのです。その一つが「Viderunt Omnes」というタイトルで残っているので、気になった人はぜひ調べてみてください。いかにも教会音楽らしい作品となっています!

※ローマ・カトリック教会は三位一体説を定説としていたので、三拍子こそキリスト教の教理に相容れるものだとみなされていたためです。

 

しかし、中世も末期になり、ローマ・カトリック教会の権威が衰退する時期(高校世界史でいうと、1303年のアナーニ事件や1309年の教皇のバビロン捕囚のころ)になると、二拍子の曲や四拍子の曲が作られるようになります。当然ながら教会は教理に反するということで反発しましたが、前述したように教会権威は衰退傾向にあったため、大きな効果は上げられず、結果的に西洋音楽に幅が生まれることとなりました。

 

とはいえ、中世末期に生まれた音楽の幅はそれほど大きくなく、むしろ調和を美徳とするルネサンス期に入ると、その「調和」がかえって発展を止める結果となりました。それが16世紀後半になると、音楽における調和が乱れる現象が起こります。俗にいう「不協和音」の誕生です。

不協和音を聞いたことがある人はわかるかもしれませんが、あの音はお世辞にも心地が良い音とは言えませんよね?何が言いたいかというと、今までは調和という「プラスの感情」を導くメロディーばかりだった音楽に不協和音という「マイナスの感情」を導くメロディーが追加されたことで、人間の感情の多くを表現できるようになった音楽は「演劇(ドラマ)」に使われるようになったのです。事実、音楽を使った演劇であるオペラはこのくらいの時代に出現し始めます。

 

そして近世、絶対王政の時代に入ると、音楽は教会から宮廷、即ち貴族のものとなります。バロック時代と呼ばれた同時代の貴族はとにかく「派手なもの」を好みました。それに伴ってバロック時代の楽曲やオペラもそれまでに比べて感情などの表現が派手となり、貴族の趣味嗜好に適合したものとなります。近世を代表する音楽家のリュリやヴィヴァルディ、スカルラッティらの音楽とルネサンス期の音楽家であるイタリアのパレストリーナの音楽を聴き比べてみると、感情表現の違いがわかる人がいるかもしれません。

 

そして最後に近世と近代の転換期の音楽家について言及したいと思います。ポイントはズバリ「宮廷からの脱却」です。

近世と近代の境界は、一般的にはフランス革命などに代表される市民革命があげられるでしょう。貴族が特別扱いされる時代は終了し、自由や平等が盛んに提唱される時代となると、音楽もそうですが、何より音楽家の風貌、特に髪型に違いが生まれてきます。ここではモーツァルトとベートーヴェンの肖像画を取り上げてみます。

モーツァルトの肖像画をを思い出してみてください。地毛にしては明らかに不自然な髪型をしております。それもそのはず、モーツァルトの肖像画の髪型はカツラです。というのも、市民革命以前の作曲家はほぼ全員が、宮廷に雇われたサラリーマンだったのです。そのため、頻繁に宮廷に訪問することが多く、その際には礼儀、あるいはマナーとしてカツラをかぶっていかなければならなかったのです。それは世界屈指の作曲家の一人と称されるモーツァルトといえど例外ではありませんでした。

 

その一方でベートーヴェンの肖像画はモーツァルトらと異なり、ボサボサの髪型で描かれています。実はベートーヴェンは当時としては異例の、宮廷や貴族から独立した作曲家だったのです。言い換えれば、宮廷に雇われ、頼まれたものを注文生産するタイプの作曲家ではなく、自分自身が作りたい曲を思いのままに作り、それを欲しい人に買い取ってもらうタイプの作曲家だったということです。したがってベートーヴェンはそれ以前の作曲家と違い、宮廷に訪問する必要がなかったので、髪型を整えたりカツラをかぶったりする必要もないため、ボサボサの髪型で描かれているということです。

なお、ベートーヴェン以後の作曲家の肖像画や写真で、髪型を整えている人物がそれほど多くないことも、ベートーヴェンを契機に宮廷からの脱却が成功したことを示していると考えます。

 

長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

音楽も文化の一つであるため、音楽史も文化史としてカテゴライズされます。世界史を勉強している人に私が何度も言っていることがありますが、それは「文化史は時代背景とともに捉えるべきだ」ということです。時代背景とクラシック音楽の変遷がリンクしていることから、歴史と音楽のかかわりは確かに存在したのだということが感じてもらえると、私は幸いです。

 

Y. Sato